飯沼勝五郎は兄・三平を殺した滝口上野(たきぐちこうずけ)に仇討ちをするべく、妻の初花と行方を追っていた。妻の初花もまた、父・新左衛門を滝口に殺されており、二人で仇討ちの旅をしていたのであった。しかし、旅の途中、勝五郎は難病を患い、足が立たなくなってしまっていた。
今日は北条氏の法事とのことで、箱根の阿弥陀寺にて施行(貧しい人への施し)が行われていた。勝五郎と初花は北条氏に仕える滝口上野の行方がわかるのではないかとやって来たのであった。そこへ、施行で酒をたらふく飲んだ次郎、月の輪、八の三人がやってくる。酔って怒る次郎、笑う月の輪、泣く八を見て、思わず笑ってしまう。三人が寝入ると、月の輪がむっくりと起き上がって勝五郎に報告をする。
月の輪は実は勝五郎の家来の筆助で、貧しい人に成りすまして滝口の様子をうかがっていたのであった。筆助が滝口の行方を追って出ていくと、次郎と八が起き上がり、勝五郎と初花を捕まえようとする。実は二人は滝口の命令を受けていたのであった。次郎と八を追い払うが油断できないと緊張する二人だった。
そこへ突然、後ろから滝口上野が現れる。今日の施行は勝五郎と初花をおびき寄せるための計略の罠であった。勝負を挑む二人に対して、滝口は初花の母・早蕨(さわらび)を捕えていることを明かす。初花を自分のものにしたいと考えていた滝口は、初花に対して夫・勝五郎と母・早蕨を助けたければ自分の妻になれと迫る。
絶体絶命の危機に初花は滝口に従うと言うほかなかった。「剣を抱いて寝るも一興」と不敵に笑う滝口。
初花は滝口に連れられて小田原の菊館へと向かうが、固い決意を心に秘めていたのであった。
初花は滝口に従うフリをして刺し違えるつもりだと悟る勝五郎。早蕨とともに初花の成仏を祈る。するとそこへ何故か初花が戻って来る。勝五郎はなぜ滝口と刺し違えることもなく、おめおめと帰って来たのかと叱責する。すると初花は勝五郎の足が治るよう滝に討たれて願をかけて今日が百日目。満願を成就させるため戻ってきたのだと話し、滝に飛び込み満願を成就させ、勝五郎の足は治るのであった。
そこへ筆助が戻ってきて、初花が滝口と刺し違えるつもりで返り討ちにあってしまったと報告する。驚く勝五郎。実は先ほど滝に飛び込んだのは、既に死んでいた初花の亡霊であったことを知る。
死してなお、夫のために尽くした初花に感謝する勝五郎。筆助とともに仇討ちの誓いを新たにするのであった。
兄・三平を滝口上野に殺されている。
初花とともに敵討ちをするべく滝口上野の行方を追っていた。
しかし、旅の途中、難病を患って足が立たなくなってしまう。
妻の初花に車を引いてもらい、家来の筆助の助力を得ながら敵討ちの本懐を遂げようとの執念で箱根へとやってきた。
飯沼勝五郎の妻。
滝口上野に自身の父・新左衛門を殺されており、勝五郎とともに敵討ちの旅に出ている。
足の立たない勝五郎を車で引くなど、献身的に勝五郎を支える。
冒頭の有名な台詞「ここら辺りは山家ゆえ、紅葉のあるに雪が降る。さぞ、寒かったでござんしょう」も夫を想う健気な妻の気遣いが現れている。
飯沼家の家来。
箱根山中の阿弥陀寺の施行で非人「月の輪の熊」に成りすまして敵・滝口上野の動向を探っている。
「三人上戸の笑い上戸」
酒に酔って笑い上戸になったフリをしている。
勝五郎と初花の仇。
北条氏に仕えている。
勝五郎の妻・初花に横恋慕。
何とかして自分のものにしたいと考えている。
初花の母。
自分の夫(初花にとっては父)を滝口上野に殺されている。
敵である滝口上野に捕らわれている。
滝口上野の家来。